<年末年始特集>どうなる暗号資産―22年の振り返りと23年の展望

■22年の暗号資産の振り返り
 22年の暗号資産市場は、ロシアによるウクライナ侵攻で売りが強まるなど、幸先の悪いスタートとなった。

 ウクライナが暗号資産での寄付を求めたのに対し、ロシアが西側諸国による経済制裁から逃れる手段のひとつとして暗号資産が活用されるとの思惑もあり、いったんは買い戻しが先行し、ビットコイン(BTC)は年始の水準に接近してドルベース4万8000ドル手前まで上昇したが、世界的な金融引き締めの流れを受けて金融市場全体にリスクオフの売りが広がり、暗号資産も調整色を強めた。

BTC、日経平均、NYダウを日本の大発会(22/1/4)の終値を100として指数化
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出所:モーニングスター作成

 上記の図は、ビットコイン/ドルと日経平均株価、NYダウを1月4日の終値を100として指数化したものだが、株式市場と比較すると、ウクライナ情勢の緊迫化までは振れ幅の大きさこそあっても、方向感に大きな違いはなかったと考えられる。方向感がまったく異なったのは、5月の「テラショック」の影響が大きい。

 「テラショック」とは、ステーブルコインのTerraUSDの裏付けとなっているネイティブトークンのテラの急落に端を発する。テラの急落によりドルと連動するはずのTerraUSDも一時急落したことで、法定通貨と連動するステーブルコイン全体の信頼が大きく揺らぐと、暗号資産全体に売りが波及。暗号資産の融資サービスを手掛けるセルシウス・ネットワークが顧客資金の出金を停止したことなどから流動性の問題が広がり、暗号資産はほぼ全面安となった。

 「テラショック」の傷跡は深く、夏にかけてはセルシウスのほか、暗号資産ヘッジファンドのスリー・アローズ・キャピタル(3AC)が相次いで破産を申請。米国の雇用指標や物価指標が強めでFRB(米連邦準備制度理事会)による金融引き締めの長期化が警戒されたことで暗号資産市場に戻ってくる資金も細り、イーサリアムの大型アップデート「Merge」への期待で下げ渋る場面もあったが、株式市場とのカイ離が広がったままの状態が続いた。

 8月からは株式市場でもFRBの金融引き締め長期化が意識されて調整。すでに暗号資産は調整が進んでいたことから下値の限られた展開が続いたが、11月には暗号資産取引所大手FTX破たんの影響で一段安となった。FTXをめぐっては、当初FTXの姉妹企業であるアラメダ・リサーチの債務超過リスクが顕在化。ライバルのバイナンスがFTXを買収することで合意したと発表すると下げ渋ったが、その後に撤回。結局は破たんしたため、暗号資産全体への売りが強まった。

 年末はFRBによる金融引き締めペースの鈍化観測から買い戻しが流入し、持ち直したものの、ピーク金利の引き上げや日銀による政策修正の影響で押し返される展開となっている。

■23年の暗号資産の展望
 FTX破たんから間もないため、23年に入っても暗号資産関連企業の破たんなどへの警戒は根強いと考えられ、暗号資産市場への本格的な資金の流入には時間がかかる可能性がある。

 金融市場全体としては、世界的な物価上昇を受けた金融引き締めの動きが重くのしかかっており、23年もFRBなど主要中央銀行の金融政策が暗号資産の値動きに大きく影響するとみられる。金融引き締めの長期化や、日銀による政策修正は織り込まれつつあるが、今後もFOMC(米連邦公開市場委員会)メンバーによる政策金利見通しや米物価指標などは注視する必要があるだろう。

 一方、年初から暗号資産関連では大きな動きがある。破たんしたマウントゴックスの弁済が始まるが、弁済の受領を希望する債権者は1月10日までに手続きを済ませる必要がある。債権者一人当たりの弁済額などは明らかになっていないが、マウントゴックスは19年時点でビットコインとビットコインキャッシュ(BCH)をそれぞれ約14万保有しており、12月28日時点の価値は約3,000億円超となる。弁済にはSBI VCトレードなどの暗号資産取引所が代理受領業者に認定されており、暗号資産の口座開設なども必要になる。全額弁済された場合、投資マネーが一定程度でも暗号資産市場に再び入ってくれば相場の支えになるだろう。

23年上半期の暗号資産関連イベント
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出所:モーニングスター作成

 主要な暗号資産では、1月にスイスの21シェアーズUSが開発したビットコインの現物価格に連動するETF(上場投資信託)について、SEC(米証券取引委員会)がその是非を明らかにする予定。これまで通り却下される可能性は否定できないが、もし承認されればサプライズとなり、ビットコインの支えになる。

 イーサリアムは9月の「Merge」に続く大型アップデート「シャンハイ」を3月に控えており、思惑が先行すれば上値を試すような展開もあり得る。また、3月までにXRP(XRP)を管理するRippleとSECの裁判が終結するとの見方があり、もしRippleが勝利となり、暗号資産は証券ではないと判断されれば、XRPだけでなく、ほかのアルトコインにとっても明るい材料となるだろう。

 国内では、金融庁は4月から施行される改正資金決済法に合わせて海外発行のステーブルコインの取り扱いを可能にするとも伝えられている。預金のための利用や、上限を設けた送金での利用を想定しており、より早い国際送金などが期待される。ただ、22年の「テラショック」ではステーブルコインへの信頼性が大きく失われた。資産保全やマネーロンダリング対策がどれだけ整備されるかが焦点となりそうだ。

 一方、23年春から日本銀行が3メガバンクなどと「デジタル円」の発行に向けて実証実験を行う。デジタル円は、いわゆる「CBDC(中央銀行デジタル通貨)」と呼ばれるものだ。これまで日銀は基本機能の検証や周辺機能の実現可能性などを検証してきたが、今回は民間企業や消費者が実際の決済で使えるか検証する。決済から入金まで1カ月程度を要するクレジットカードと違ってCBDCでは即座に入金でき、夜間や休日でも送金できるため、利便性が高まると期待されている。また、災害時など、ネットがない環境でも稼働するか確かめるという。

 CBDCでは、中国も実証実験を始めている。一方、ロシアは23年中にデジタルルーブルの取引を開始する予定だ。ウクライナをめぐって西側諸国との対立が続いているが、デジタルルーブルが成功すればドルやユーロといった基軸通貨を使った経済制裁の威力が衰えるとの見方もある。

 個別では、23年下半期にライトコイン(LTC)やモナコイン(MONA)が半減期を迎える見通し。半減期は新規発行される暗号資産の枚数が半減するイベントで希少性が高まるとして上昇材料にされることが多く、近づくにつれて思惑が強まりそうだ。

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