欧州で加速する即時決済へのシフト

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 即時決済は、EU(欧州連合)および英国全土の消費者や企業が選択する決済手段として前進し続けている。欧州委員会などの機関が、より強固な金融インフラを構築し、即時決済を普及させようと取り組んでいる。しかし、野心的なプロジェクトには厄介な課題が立ちはだかっている。

 欧州委員会は23年6月、電子決済市場の急速な発展に対応するため、PSD3(決済サービス指令第3版)案とPSR(決済サービス規則)案を発表した。

 この金融データへのアクセスおよび決済に関する規則案は、以下のことを保証するリテール金融サービスの効率的な市場を維持することを目的としている。

・EU全域での共通ルール
・決済に関する明確な情報
・迅速かつリアルタイムな決済
・消費者保護
・幅広い決済サービスの選択肢

 現在、EUの決済サービスプロバイダーの3社に1社はユーロでの即時決済を提供しておらず、ユーロ圏では最大7000万件の決済口座で即時決済の送受信を実行することができない。多くの場合、即時決済は従来の送金よりもはるかに高いコストがかかり、1回の決済につき30ユーロも要することもよくある。

 PSD3とPSRの措置は、不正行為の防止、オープンバンキング機能の改善、270以上の電子マネー機関と800以上の決済機関における管理規則の調和など、デジタル変革のためのより良い環境作りに重点を置いている。

 この取り組みにより、決済口座以外でも、金融セクターにおける顧客データ共有の管理に関する明確な権利と義務が確立される。実際、これは利用者にとってより革新的な金融商品やサービスの提供につながり、金融部門における競争を活性化させるはずである。

 またEUは、市民や企業が国内決済と同じように簡単かつ安全にクロスボーダー決済を実行することができ、クロスボーダー決済にも国内決済と同様の手数料が課される単一決済圏を作り上げたいと考えている。

⚫︎英国で進展の兆しを見せる決済システム案

 英国では、FPS(リアルタイム決済システム)により、英銀行口座間で四六時中迅速かつ安全な決済が可能となっている。22年、FPSの処理件数は大幅に増加した。

 23年第2四半期、同システムの処理件数は、前年同期比で14%増の12億件に達した。同四半期の処理総額は前年同期比15%増で9140億ポンドとなった。

 この目覚ましい処理総額は、商品やサービス戦略、キャッシュフロー、コンプライアンス、そして顧客維持に影響を及ぼす変革の必要性が金融機関に差し迫っているということを証明している。銀行などの金融機関を含むすべての決済サービスプロバイダーは、官民一体となったさまざまな開発イニシアチブにより、リアルタイム機能にアクセスしやすくなるだろう。

 英国は長い間リアルタイム決済分野においてパイオニアとしての地位を維持しているが、決済アーキテクチャに関してG7経済国の先頭に立つことが急務であることに変わりはない。英PSR(決済システム規制局)は、ある口座から別の口座への決済など、銀行間決済への対応を強化するため、NPA(新決済システム)プログラムを進めている。このイニシアチブは、FPSや小切手決済システムなどの決済処理に利用される現行システムを統合することも目的としている。

 NPAは金融メッセージング規格ISO20022の採用を推進し、新たなリアルタイム決済商品を提供しようとしている。このメッセージング規格に移行することで、取引に付随するデータがより豊富になり、入金の迅速な配分と照合が可能になる。

 NPAは、サービス提供に伴うコストを削減し、不正行為を防止し、最終的にはFPSに取って代わる枠組みを構築するインフラをサポートすることが期待されている。

⚫︎新たな決済システムの紆余曲折

 従来のコルレス・バンキング・モデルに対する不満は、特に常時接続の国内P2P決済サービス分野と比較されることで、他の決済システムとプロバイダーが取り組みを改善するきっかけとなった。

 PwCの調査によると、回答者の42%はクロスボーダーでクロスカレンシーな即時B2B決済が今後5年間で急成長を遂げると強く感じている。

 しかし、決済イニシアチブにおける野心的な汎欧州主義的な協力は、欧州決済イニシアチブや最近のP27イニシアチブのように、しばしば課題に直面する。善意の取り組みであっても、利害の対立や連合間の不和、さらに参加者の不足は問題になる。

 北欧主導のクロスボーダー決済イニシアチブであるP27の場合、拡張可能なモバイル決済スキーム(モバイルペイやVipps)はいずれも対応しておらず、最終的にプロジェクトの複雑さが運営モデルを破滅に追いやった。

⚫︎即時決済を支えるトレンド

 ヨーロッパ全土で即時決済ソリューションの採用が加速している背景には、いくつかの重要なトレンドがある。まず、B2BおよびB2C決済分野の急速な近代化である。消費者と企業の双方から、国際決済システム機能が国内決済システムと同じくらいシームレスに機能することを期待する声が高まっている。

 ECB(欧州中央銀行)は、デジタルユーロ、あるいはヨーロッパ全域で普遍的に利用できる同等のデジタル決済手段の検討を進めている。ECBによると、デジタルユーロは、ヨーロッパのガバナンスの下で汎欧州主義的な決済ソリューションを提供し、ヨーロッパの決済分野をより強靭かつ競争力があり、革新的なものにするという。ECBは28年の導入を目指し、デジタルユーロの試験運用を開始する予定である。

 金融機関は需要に対応し、デジタルユーロサービスを顧客に提供するため、機関レベルのデジタル資産ソフトウェアインフラを迅速に導入する必要がある。さもなければ、ECBが市場を追い抜き、顧客にデジタルユーロアプリを直接提供することになるかもしれない。

 また、ブロックチェーンなどのより効率的な分散型台帳技術に対する強気姿勢も、デジタルへのシフトを後押ししている。さらに、各国政府はオン・オフライン決済における国際的なカードスキームからの依存を断ち切りたいと表明している。

 17年にデジタル通貨の調査を開始したスウェーデンの中央銀行リスクバンクをはじめ、世界の中央銀行の90%以上がCBDC(中央銀行デジタル通貨)を研究または試験的に導入している。リスクバンクは23年、eクローナの技術ソリューションをテストし、エンドユーザーからのフィードバックを得るための研究を行い、発行可能なeクローナの開発を準備していると明らかにした。

 ヨーロッパではすでに、地域経済を強化するための新たな決済システムの導入が進んでいるが、その技術的優位性とデジタルファーストなアプローチにより、ヨーロッパの競争力はさらに高まることになる。

(イメージ写真提供:123RF)

https://ripple.com/insights/an-accelerated-shift-to-instant-payments-across-europe/

This story originally appeared on Ripple Insights.

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